毎年6月23日はルクセンブルク大公の公式誕生日、ナショナル・ディ Nationalfeierdag として盛大なパレードやイベントが行われます。
残念ながら昨年に引き続き今年もキャンセルになりましたが、例年であれば前日から国を挙げての大イベントなのがこのナショナル・ディことルクセンブルク大公の公式誕生日。実は現ルクセンブルク大公アンリ殿下の本当の誕生日は4月16日なのです。本当の誕生日と公の行事であるパレードが開催される公式誕生日が全然別の日なのは英国のエリザベス女王と一緒、誕生日のパレードを沿道の観衆が見物しやすい6月の時期に行うのも同じです。この公式誕生日は君主が次の世代に交代しても日付は変わりません。実はアンリ殿下の祖母にあたる前々大公シャーロット陛下の時に定められた日付なのです。1月23日生まれのシャーロット大公の誕生日が冬だったため、1962年に公式誕生日を6月に延期したのが始まりだそう。

とっても尊敬されてるシャーロット大公。姉のマリー・アデライド大公が第一次大戦中ルクセンブルクを占領していたドイツに協力していたことで退位を余儀なくされ、代わりに即位したのがすぐ下の妹であったシャーロット大公。その後第二次大戦のナチ占領下で亡命生活を送りながらも海外からルクセンブルクのレジスタンス運動を支援し続け、ナチ解放後のルクセンブルクに帰国し、連合軍に軍人として参加し戦った息子のジャン殿下とともに市民の熱狂的な歓迎を受けます。1964年にジャン殿下に大公位を譲位し引退、1985年89歳でご逝去。ナッサウ=ヴァイルブルク家の父系の子孫としては最後の一人、またローマ教皇に黄金のバラを送られた最後の個人となる、とのこと(写真ともにウィキペディアからの引用)。
ルクセンブルクのナショナル・ディは前日22日夕方、16時からの大公宮前の衛兵交代で始まります。この日大公一家の皆さんはルクセンブルク中の地方都市を回って各自治体の式典に出席するのが習わし。旧市街中心部のグラン=リュ Grand-Rue では夜の松明行列に向けて参加者が集まり始めます。この日の長い時期、薄暗くなるのを待っての松明行列は夜の9時ごろからになってしまうのですが、お昼過ぎからもう大勢の人々が繰り出して来ます。正直、一年を通してグラン=リュにこれほど人がいることを見ることはないのではと思うほどの人の多さ。ルクスにこんなに多くの人住んでたんだ?
上の動画は松明行列の出発を待つまでグラン=リュの人々にファドを披露するポルトガル系の皆さん。他にも様々なルーツを持つ人が住むルクセンブルクでは、多様な出自の人々がそれぞれの民族衣装や所属を表す乗り物などでパレードに色を添えます。西側にある公園キネクズウィス Kinnekswiss では子供達のためのアクティビティが用意されています。




あたりが薄暗くなるといよいよ松明行列が始まります。ボーイスカウト、チアリーダーから救助犬、地方自治体や趣味のサークルらしき団体、そしてもちろん地元ルクセンブルクの昔の衣装に身を包んだ生粋のルクっ子の皆さん。手に手に松明を持って市内を練り歩きます。












どこから来た人たちかバレバレな団体も(註・これはブレクジット前のナショナル・ディです)。ロンドンの道を走っていた本物のルート・マスター。どうやって持ってきたのか、まさかドーバー超えて運転してきたのでは。



松明行列が F.D, ルーズベルト大通りの特設会場に到着する頃、1日中ルクセンブルクを飛び回っていた大公夫妻も同じ特設会場にやって来ます。日が落ちきって夜11時ごろになるとアドルフ橋から上がる花火が一番よく見えるのがこのF.D, ルーズベルト大通りの特設会場。2019年はルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団のライブ演奏と花火がシンクロし真夏の夜の大スペクタクルでした。ただ大変なのはこの花火を見ようと国中から詰めかける人の多さ、特に特設会場の周囲は近づけないほどで、いちばん良い場所で花火が見たいならペトリュス川を見下ろせる建物の部屋を1年前から買っておくこと、と言われるほど。アドルフ橋の両側は歴史的に銀行が多いエリアなのですが、本当に銀行のお偉いさんらしき人が自社ビルにお得意様を案内していたのには驚きました。さすが金融都市の銀行。やる時はやるぜ。

私はアドルフ橋にかなり近い方で観ていたので、人は多くてもスペースに余裕があってストレスなしで見物出来ました。ビックスクリーンで特設会場のフィルハーモニーの演奏も中継していたので音が遅れることもなく存分に楽しめたのも良かった(しかし後日この花火がペトリュス川や公園に住む野生の鳥や動物を脅かしているという動物愛護団体からの批判が新聞に載っていてうーむ難しい問題が)。
ルクセンブルクの虚構新聞と名高い Luxembourg Wurst は「この日ばかりは(ふだんそんなことはしないルクセンブルクの住民たちも)知らない人に話しかけることが許される」ともっともらしく書いてますが、本当に花火を観ている間いろんな通りすがりの人に話しかけられました。花火の感想くらいはルクセンブルク語で言えるようにしとけばヒーローになれたよね…花火が終わって真夜中近くなっても、あちこちのお店で音楽が鳴り響き酔っ払いが騒ぎ、夜じゅうお祝いが続きます。しかも次の朝にも軍事パレードという一大イベントがまだ続くのです。

ナショナル・ディの本番の6月23日の朝、フィルハーモニーで大公夫妻列席の公式セレモニーが行われます。この儀式が終わると市の東の外側フェッチェンホフ Fetschenhof から21発の祝砲が撃たれます。
大公夫妻と各国大使などの貴賓の皆様はその後軍隊パレード会場に移動し、大公殿下による閲兵ののち軍人と警察官、救命隊員なども合同の軍事パレードが始まります。2019年はキルシュベルクのJ.F.ケネディ大通りを装甲車や軍楽隊が行進しましたが、それ以前はアドルフ橋から中央駅を結ぶリベルテ通り Avenue de la Liberté がルートだったとのこと。

これはパレードに参加するために J.F.ケネディ大通りに集まって来ていた軍人と警察官の皆さん。軍事パレードって現地集合なんだ…(もっと別の待機場所で一旦全員集合してきっちり点呼とか取ってからおもむろに現地に向かうものかと)。ヤベッって感じで走り出しているのは遅刻しそうなのでしょうか。ちなみに優しいトラムの運転手さんはみんなが渡り終わるまで出発を待っていてくれてました。このユルさがルクの良いとこ!




数は少ないけど軍事車両も参加し、ルクセンブルク国旗が沿道の現物客に配られ子供たちが楽しそうに旗を振っています。トラムがパレードと並走しているのもちょっと面白い。

空からもパレード参加!人の悪い知人が「あの飛行機はこのパレードのためにフランス軍から借りて来たやつなんだぜ」というのですっかり「あーレンタルなんだ?」と信じてましたが、あとで調べたらルクセンブルク軍も軍用機を数台所有してたのでおそらく自前。ちなみにルクセンブルク軍の兵士は全部で939人、海軍・空軍はなく陸軍のみです。
上の動画はパレード当日ではなくその前の予行演習を撮影したもの。当日はもっと華やかな正装で行進し、沿道には人が溢れます。沿道が長く道が広いのでどこからでもパレードが見えないなんてことはないですが、d’Coque の前の階段の上からだとより全体が見えやすかったです。午前中の軍事パレードが終わると、午後にはノートル・ダム大聖堂で伝統的な聖歌 Te Deum が斉唱されます。



スーパーの食料品売り場もこの日に合わせて愛国心を存分に発揮。ふだんはあまり目立たないルクセンブルク地元産の食品を推しまくっております。発砲酒クレマンとチョコレートが有名だけど、Drauffelt や Berdorf 産のチーズは最高だし、他にもマスタード、バームクーヘン(バームクーヘン発祥の地のひとつなんですよ!)ベーコンやソーセージ、ポテトチップスなども生産しております。今年はルクセンブルク市からルクセンブルク料理のレシピのパンフレット、ルクセンブルク赤十字からは地元産小麦を使ったパスタが配られました。

去年に続いて今年も中止になってしまったナショナル・ディ、もっとルクセンブルクについて知りたい方はRTLのウェブサイトで国旗の意味や歴史の紹介などこの日に合わせた記事を特集していますのでそちらもチェックしてみてください。ルクセンブルクの特産品やクレマンでお祝いするもよし、一日寝倒すもよし。それでは皆さん、良い Nationalfeierdag を!